vol.3 スプーンの傑作・ライトニングウォブラーの開発について
2015年05月16日 10:00スペシャルvol.3は、私が大好きなスプーン “ ライトニングウォブラー ” の開発を担当されて
いる(株)ティムコのフィッシング部ルアーチームの本多( 以下、Hさん )さんをお迎えしました。
*(株)ティムコさんは、フィッシング・アウトドア関連用品の企画開発、輸出入製造及び販売を事業とする企業。創業は1969年。
* 本多さん (株)ティムコさんの会議室にて
(株)ティムコさんに伺って、その開発についての話をお聞きするとともにルアーの開発の
現場も見学させていただきました。
インタビュアー 工藤( 以下、K ) 2015年3月26日
K:
本日はお忙しい中、取材のお時間をいただいきまして、ありがとうございます。
よろしくお願いします。
Hさん:
こちらこそ、よろしくお願いします。
K:
早速なのですが、今日お聞きしたい話についての背景をちょっと説明させてください。
私は、国内外ともにサケ科の魚をルアーやフライで釣っているのですが
どちらかというとルアー、特にスプーンが好きなんですね。
プラグも使うこともあるのですが。ルアーの原型とも言われるスプーンはシンプルで
それを使う釣り人の裁量の幅が広く、自分なりの活かし方ができるような感じがして。
魚を釣り上げたときの達成感が、私にとっては格別なんですね。
そして、そのスプーンの中でも、「ライトニングウォブラー」は大好きなルアーなんです。
自分で使い方をいろいろ工夫ができる点が素晴らしく、今までに国内外で数多くの
トラウトやサーモンを釣ってきました。

* 2004カナダ・バンクーバー島にて。念願のスティールヘッドを、ライトニングウォブラー10gで釣り上げる。
写真のスティールヘッドは、このライトニングウォブラーで釣ったのですが、記念に今は使わずに
大切に保管しています。言わば、殿堂入りです( 笑 )。

* 私所有のライトニングウォブラー10g
海外の釣り旅では、サーモンの場合はライトニングウォブラーとともにコンデックスや
ダイワのチヌークなどのスプーンも状況に合わせて使っています。
ただし、トラウトに関しては、ほぼ7割はライトニングウォブラーなんですね。
Hさん:
それは、ありがたいですね~
K:
かなり重たい流れの川や湖の底を狙う場合は、14gや18gが必要になってくると
思いますが。これは私なりの捉え方なのですが、特に河川でのニジマスなどは
トップに近い表層に向かって出てくるケースが多くて、スプーンなんだけど、水面直下
から中層を引きたい。そういったケースにライトニングウォブラーの7gや10gは、
抜群に使いやすいし、効くっていうのがありまして。
後、設計の技術的なことは、わからないのですがリトリーブ( ルアーを投げた後に、リールを巻き
ながらルアーを動かすこと )している際に、リールのハンドルを通してゆらゆらとした独特な動き
の感触が伝わってくるんですよね。他のスプーンとは明らかに違うような。きっと、それがトラウト
に効いているのだろうなって、長年使い込んでいて感じているんですね。
スプーンはどれも似たり寄ったりな感じはしますが、“ ならでは ”というような設計といった
ところを伺えるとうれしいのですが。
Hさん:
なるほど。わかりました。
最初に、ちょっとディテールの話なのですが。ライトニングウォブラーは、地味に少しずつ
変わってきていまして。工藤さんが今日お持ちになったものが、一番初めに作ったモデルです。
ここのリングがロウ付けなんですね。

* 初代モデルのプラズマ溶接のリング
ラインが当たっても切れないように。製作の現場の話では、本当はロウ付けでは
なくプラズマ溶接と言うんだそうですが。さらにコストがかかっているんですね。
今のモデルは、スプリットリングになっていますが。
さて、ご質問の本質的な話を。まずスプーンの製造工程の基本からお話しますね。
これは違うタイプの抜型なんですが、スプーンって抜くんですよ。真鍮などの板を。
その後、ぱこーんっていう曲げ型に入れて形を作るとこういう状態になります。

* 抜型( 左 )と、その後の曲げ型( 右 )
で、メッキとかしたり、バフがけして表面をきれいにしたりしていく。
そうやって、通常のスプーンができてくるんです。
ライトニングウォブラーって、こことここと間( 写真の左と右 )にもう一つ工程が
あるんですね。テーパーがついているじゃないですか。テーパー付けという作業が入るわけです。
K:
その、テーパーっていうのが、よくわかっていないのですが。
Hさん:
厚みの変化ですね。ヘッドが薄くて、テールに向かってだんだんと厚くなっているの
わかりますよね。

* ライトニングウォブラーの横からのアップ。ヘッドからテールに向かってだんだん厚くなっていく。
K:
なるほど~ そういうことなんですね。
御社のカタログにも書いてある「テーパーブレードデザイン」っていうのは。
Hさん:
はい。で、何でこういうようにしたのかっていうと。要は、後ろ重心ですよね。
後ろ重心にすることによって、まず単純に飛距離が出るんですよ。特に、向かい風の中での
キャスティングでよくわかるんですが。ライトニングウォブラーは、ぴゅーっと、
きれいに飛んでいきます。テーパーのないスプーンだと、風に負けてぶるっと回ったり、ぼちゃんと
落ちたりすることがあるんですけど。
あと、重量バランスが後ろについているからだと思いますが揺れ方が違いますね。
そして、もう一つは、川でルアーをキャストするときに例えば上流に向かって投げますよね。
それをリトリーブしてターンさせるじゃないですか。この辺でぐ~んとターンさせて釣りたい
としますよね。ところが、ターンさせたときって、ライン( 釣り糸 )の流れとかスプーン自体の
動きに対する抵抗があって、ぐ~んとスプーンが浮き上がってきてしまうことがあるんですね。

* 川の図、ターンのポイントと浮き上がりやすいゾーンについて
仮にターンさせたあたりの岩のところに魚がついていたとしたら、
いわゆる棚に来たルアーを食おうと思った魚の目の前から、びゅーっと上がって
いってしまうことになる。元気があれば、食ってくるかもしれないですが。
K:
元気がなければ( 活性が低ければ )、追っかけませんよね( 笑 )。
Hさん:
そうですよね。
人のプレッシャーが強いときとか、いろんな状況を考えるとなるべく、魚の目の前を、魚の遠くより
近くを通ったほうがいい。だから、浮かないほうがいいわけですよ。
ライトニングウォブラーは、その浮き上がりが少ないんですね。繰り返しになりますが。
川上にスプーンをキャストして、最初は流れに沿いながら引いていきますよね。
で、ある時点からは流れに逆らいながら折り返すようなタイミングになる。
その際に、他のスプーンは水面上に、ちょぼっ、ちょぼっていう感じで浮き上がりやすく
なりますが、このライトニングウォブラーは、その浮き上がりがとても少ないんですね。
流れの強さにもよりますが、水面下だいたい30cmくらいをトレースできると思います。
K:
その感覚、わかりますね。よくU字ターンの折り返しあたりで、魚が食ってきますが、
そのあたりから、流れに逆らうのでスプーンが浮きやすくなってきますからね。
Hさん:
はい。
それが、テーパーにした一番の理由です。それだけと言ってもいいくらいですね。
これも、テーパーによって、後ろに重心があるのが効いているのだと思います。
K:
なるほど!
解説いただいて、釣りの現場で感じていたライトニングウォブラーが浮かないで、
しっかり動いていくというのが腹落ちしました。
Hさん:
あと、こんな話もあるのですが。
ライトニングウォブラーは、スプーンとしては製造工程に手間がかかっているので
約800~900円くらいと高いんですね。もっと売れるようにと、それより安い400~500円の
普通のスプーン( 下の写真 )も作ったこともあるんですね。
でも、売れないので止めてしまいました。

それを作る過程での発見したことがありまして。
スプーンを潜らせようと、曲げたり、カップを深くしたりといろいろ試してみて
一番感じたんですが、飛ばないんですよね~
K:
へぇ~ 空気抵抗が強くなるのでしょうね?
Hさん:
はい。
管理釣り場用の軽量のスプーンであれば、さほど影響はないかもしれませんが。
このクラスになると、カップがやたら深かったり、変な形に曲げていたりすると
最初はびゅーっと飛んでも、すぐ失速して、ぼちゃっと落ちてしまったり。
飛ばなくなるんですね。
K:
そうですか~
そういう開発のプロセスの話って、面白いですね。
私の感じているライトニングウォブラーの特性として、7gや10gのタイプをよく使うのですが。
浮きにくいということに加えて、おそらく重さの割には全体として肉薄のせいだと思いますが、
逆にスローでリトリーブしているときでも沈みにくいということがあって。
とても助かるケースがあるんですね。
( もちろん、ボトムを釣ろうとする場合には、しっかり沈めることもできます )
Hさん:
と、言いますと?
K:
魚の活性が高いときには、前述したように、特にニジマスなどは水面直下に向かって
ルアーに飛びついてくる。いわゆる、トップウォーターに近い釣りです。
そういうときには、水面直下を浮きすぎず、かつ沈みすぎずに安定した軌道を
トレースできるのでとても助かっています。
とてもエキサイティングな釣りができますから。
1~2gなどの極小のスプーンを使う管理釣り場は別として、自然の渓流ではスプーンは
沈ませてボトム( 水底 )を釣るのに使って、トップはプラグでというイメージがありますよね。
なので、私がスプーンでトップウォーターに近い釣りもしているというとよく驚かれます( 笑 )。
2013年の夏のアラスカでも、その釣り方で型のいいニジマスを釣り上げることができたんですよ。
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* 2013アラスカ・コンタクトクリークにて。 レインボートラウトをライトニングウォブラー7gでキャッチ。
Hさん:
なるほど、それはいいですね~
これからも、ライトニングウォブラーを使って釣りを楽しんでいただければと思います。
K:
はい。ありがとうございます!
これからも、私のトラウトフィッシングにとって欠かすことのできないルアーであり続けると
思います。本日はお忙しい中、とても興味深く、かつ楽しいお話をありがとうございました。

* 上から、初代、2代目のライトニングウォブラー、3代目のライトニングウォブラーⅡ
* これから発売されるガンメタリック・カラー
会議での取材の後に、ルアーの開発の仕事をされている部屋の見学もさせていただきました。
その雰囲気が伝わると思いますので下記の写真をご覧ください。

*3Dプリンター
工場にプロトタイプを発注する前に本社開発ルームでプロトタイプを作成できるようになり
作業効率が上がり助かっているとのことでした。

* 室内の水槽と屋上の水槽
プロトタイプのルアーの動きを試す水槽。室内と屋上に設置してありました。
あくまで簡易で、自然の川や湖の流れを再現できるわけではないが、
止水でチェックする必要があるとの話でした。

* カラーリングルーム
ルアーにカラーリングを施して、それをサンプルとして工場に送るそうです。
私には、プラモデル・マニアの方の部屋みたいに見えました( 笑 )。
その他、ジグへッドやメタルジグの型を鉛でつくる機械なども 。

* メタルジグのプロトタイプの数々